You ain't heard nothing yet!

ある社会科講師の旅の回想録

You ain't heard nothing yet!(お楽しみはこれからだ!)

ホン川~ベトナム紀行㉓~

 ラオスに行くにあたって一度ハノイに立ち寄ることにした。ハノイはベトナムの首都である。ホテルはトリップアドバイザーで上位の3つ星ホテル。口コミ評価が抜群によく,立地も申し分なかった。ホテルにはあらかじめメールで送迎をお願いしておく。
 ハノイ国際空港(ノイバイ空港)はハノイ市のほぼ真北にある。車で約30分ほどだからそれほど遠くはない。ハノイ市に近づいたところで大きな橋を渡る。ホン川である。漢字では「紅河」と書く。鉄分(酸化鉄)が多いため赤くみえることから名づけられたというが,見た感じでは,熱帯でよくみる茶色い濁った川とかわりない。かつては「ソンコイ川」とよんだ。私が中学生のころは「ソンコイ川」で学んだ記憶がある。「ソンコイ,メコン,メナム,イラワジ」とはインドシナの大河を一気に覚える呪文であった。私が今でも敬愛する沢田先生(当時の塾の先生)は私たちに何度もこの呪文を叩き込んだ。しかし私が大学生になるまでの三年間に教科書などでは名称が変わっていたようである。今では「ホン,メコン,チャオプラヤー,エーヤワディ」となっており,原型と留めているのはメコン川だけである。
 「ソン」とはそもそもベトナム語で「川」の意味であるから,川をつけず「ソンコイ」,あるいは「コイ川」というのが本来は正しいが,どういうわけかこのような訳はままある。北米のリオグランデ川などのリオも川の意味で「グランデ(大)川」が本当は正しい。ちなみに「コイ(Cai カイ)」は「女性」を表し,「ソンコイ」で「母なる大河」というぐらいの意味である。「ホン(赤・紅)」は中国語ではないのだろうか。だとしたらベトナムでの呼称は「ソンコイ」のままでよかったのではないか。
 ホン川は中国の雲南から流れ出て,下流で三角州(デルタ)を形成しトンキン湾に注ぐ。そのデルタ地帯にハノイは位置する。本流と支流に囲まれた低湿地に発達したハノイは漢字では「河内」と書く。このとき私は中華航空を利用してハノイへ飛んだ。台北の空港でハノイ便が英語と並んで「河内」と漢字表示されていたのには笑いがこみ上げた。「河内(かわち)」といえば私の出身大阪の旧称でもある。大阪の場合,淀川と大和川の両河川に挟まれた地域をかつてはそう呼んだ。私はこれから大阪に返されるのかと何だかにやけてきたが,「河内」は当然音読みするわけで,日本語読みでは「カナイ」であり,「かわち」ではない。