ノイシュヴァンシュタイン城の主はルートヴィヒ2世(1846-88)。彼が幼少期を過ごしたのが,彼の父が改築したホーエンシュヴァンガウ城であった。父マクシミリアン2世がこの城を購入したとき,城の名はシュヴァンシュタインといった。シュヴァンは「白鳥」意味である。この地がアーサー王伝説にも登場する円卓の騎士の1人パーシヴァル卿の息子,白鳥の騎士:ローエングリンにゆかりのある地であるらしい。(『アーサー王の死』)マクシミリアンはこの城に「ホーエン」という接頭語をつけてホーエンシュヴァンガウ(上白鳥の里)とした。
『わが青春のマリアンヌ』(1955年)という奇妙キテレツな映画があった。ドイツ語版とフランス語版の二本がつくられ,私はフランス語版しかみたことはないが,両方で主演女優を務めたのがマリアンヌ=ホルト。この映画の原作はペーター=メンデルスゾーンの『痛ましきアルカディア』という。
原作と映画のタイトルを聞いて,ピンとくる人がいると思う。松本零士のアニメ:キャプテンハーロックの劇場版タイトル『わが青春のアルカディア』である。松本零士は「999」のメーテルのモデルがマリアンヌ=ホルトであったといっていたのをどこかで聞いたことがある。話が横道にそれたが,この映画の舞台として使われたのがホーエンシュヴァンガウ城であった。
話を元に戻す。ルートヴィヒは「新しい(ノイ)」白鳥城としてノイシュヴァンシュタインを建築する。父に負けず劣らず中世ロマンティシズムを具現化しようと試みたが,その思いをすべて込めた完成品とはならなかった。
考えてみればこの城は19世紀も末に建設された城なのだ。近代も成熟したころの作品だと考えるとやはり没落貴族の悪趣味の域を超えないのではないか。日本にもまれに広い敷地に天守閣のような構えの豪邸をみかけるが,その興ざめた感じにも似ている。世界遺産に登録されていなくても不思議ではない。
ホーエンシュヴァンガウからノイシュヴァンシュタインへ向う山道をのぼる。この時点で私はあるまちがいを犯していることに気づかなかった。1つ目は自分の足で登ることはなかったということである。雪がしっかりと積もっているので思うようには進めない。当然靴は雪山仕様ではない。冷たさが伝わってくる。そのうち水分が靴の中にしみ込んでくる。最悪の気持ち悪さである。
それでもなんとか城の入り口まで辿り着いた。と,ここで2つ目の大きな過ちに気づかされる。この城の内部は自由見学できないこと,そしてそのチケットはホーエンシュヴァンガウのオフィスで購入するということ。ここまで来て絶望的な情報である。次々と場内に入る人々を横目にトボトボと引き返すしかなかった。まぁうまくいかないことも多々あるのが気ままな1人旅である。
結局,再びチケットを購入して定時にスタートするガイドツアーに参加する気力と体力は残されておらずこの度はその外観を目にしただけで満足することにした。今は便利になってガイドツアーのチケットはウェブサイトでも事前に購入できるらしい。この城が旅のハイライトという方は利用した方がよいだろう。
というわけでノイシュヴァンシュタイン内部に関して私自身が直接見聞きした情報はない。この城やルートヴィヒ2世に関しては山ほど本が出ているし,ガイドブックに詳しく載っているのでそれらを参照してもらおう。