You ain't heard nothing yet!

ある社会科講師の旅の回想録

You ain't heard nothing yet!(お楽しみはこれからだ!)

スイス銀行~ドイツからイタリアへ⑰~

 スイスの首都はベルンというところにあるが,チューリッヒはスイス最大の都市といってよい。「Zurich」と綴って,英語だと「ズーリック」という発音になる。「-ch」を「ヒ」と発音するのはドイツ語の特徴で,スイス北部,ドイツに近いこの辺りはドイツ語圏である。
 チューリッヒ中央駅構内でドイツマルクをスイスフランに替える。スイスフランは世界で最も安定した通貨であり,金(金属)よりも「かたい」といわれてきた。私がこのあたりを旅したときはまだユーロは存在せず,各国は各々自国の通貨を使用していたが,ドイツマルクを基準にユーロが導入された今でも,スイスが独自の通貨を使い続けるほどその地位は揺るがず,「ユーロなど何者ぞ」と蠅ほどに見下す高みに立っている。
 それと同時に国際金融市場においてもスイスが果たす役割が大きい。いわゆる「スイス銀行」である。「スイス銀行」という名の銀行があるわけではなく,スイスを拠点とする大手銀行の総称,あるいはその業務全般を指してこう呼んでいる。スイスフラン,時計,同様,スイスの信頼性の高さを象徴するものである。顧客情報の機密保持には絶対的信用が置かれているため,世界の大富豪の資産,時には裏・闇社会の資金が委ねられていると後ろ指を指されることもある。こういった口座名義は匿名でもよく,口座番号とともに番号で管理される。我々一般人にはほぼ縁のない銀行であり,接点となるのは映画や漫画(アニメ)などフィクションを通じてのことが多い。わがゴルゴ13も顧客の一人である。チューリッヒにはこういった金融機関や大手銀行が集まっている。
 映画『華麗なる賭け』(1968)で,スティーヴ=マックイーンが大富豪の大泥棒(トーマス=クラウン)を演じた。これを逮捕しようとフェイ=ダナウェイ演じる保険調査員が捜査に協力してマックイーンに近づく。しかし盗んだ金の行方がわからない。フェイ=ダナウェイが同僚に金のありかについて,推測してこう言う。

 

 スイス銀行の匿名口座。
 危険なお金だと承知で預かる所よ。
 (どうやって税関の目をごまかした?)
 スイスはチェックが甘いことで有名なの。
 手荷物はフリーパスよ。

 日本語字幕「スイスはチェックが甘いことで有名なの」の部分は,英語では「The Swiss are notoriously casual about certain formalities.」と言っている。直訳すると「スイス人は特定の形式に関してはとても気楽なことで有名だ。」であり,特定の形式とは「手荷物」のことだけではなさそうである。「特定」・「気楽」という言葉に一種の皮肉が混じっている。

 『華麗なる賭け』のトーマス=クラウン(スティーヴ=マックイーン),最高にかっこよかったよなぁ。怖いもの知らずのスリルを求め続けるトーマス=クラウンに女性が尋ねる。

 

What do you have to worry about?(心配するのは何?)


トマス=クラウンの返事が

 

Who I want to be tomorrow.(明日のこと(自分)さ)

 

『華麗なる賭け』はピアース=ブロスナンを主演にリメイクされている。『トーマス・クラウン・アフェアー』(1999),原題がそのままカタカナで邦題になっている。昔は邦題からもう粋であった。

 

 

 
追記:
『華麗なる賭け』の主題歌『風のささやき』。これ名曲です。ミシェル=グランの映画音楽,大好きです。