You ain't heard nothing yet!

ある社会科講師の旅の回想録

You ain't heard nothing yet!(お楽しみはこれからだ!)

永世中立国~ドイツからイタリアへ㉒~

 スイスの州はカントンとよばれる。カントンごとに憲法・三権(立法・行政・司法)の府をもっている連邦国家である。防衛・外交上の権限は連邦政府にあるということを除けば,共和政の枠内で国家形態を自ら自由に決定することができる主権国家並みである。イニシアチブ(住民発案)・レファレンダム(住民投票)をもつ半直接民主制から住民集会型の直接民主制をとることもできる。もちろん純代議制をとることも可能である。シラーのテルの戯曲でも三州の代表者が多数決をとって悪政への抵抗に立ち上がるシーンに多くのページが割かれている。実は主人公テルが登場するシーンは多くない。

 こういえばスイスの住民がいかに自分たちの自治を自分たちで勝ち取ったかということになりそうだが,神聖ローマ帝国やハプスブルク家が本腰を入れてスイスを支配したかったかどうか少し疑問は残る。何せ穀物が少ない険しい山地に加え,豊富な鉱物があるわけでもない。オーストリアのザルツブルクのように塩が採れるわけでもない。(ザルツブルクとは「塩の山・砦」)交通の要所としてもいまいち。大国にとっては魅力に欠けた場所であったがゆえに,独立もたやすかったのではないか?

 現在のスイスを特徴づける言葉に「永世中立国」がある。テルの話から自治権をもつ州の同盟は拡大していったが,正式に神聖ローマ帝国から独立したのは1648年,三十年戦争のウェスファリア条約であった。さらにそこから200年近くたったナポレオン戦争後のウィーン会議(1815)においてスイスは永世中立国となった。よく「永世中立国」は平和だから軍隊をもたない,戦争しないと勘違いされる。そういうわけではない。他国間の戦争に加わらないという姿勢である。だからやられたらやり返す。スイスは国民皆兵の国なのである。つい最近まで家にはシェルターの設置が義務付けられ,家庭には銃が貸与されている。いざとなったらおばあちゃんまで戦う覚悟ができているのだ。その山がちな国土から山岳自転車部隊というのもあった。下手な軍用車両より走破性がよいのだろう。