カンボジアの入国にはビザが必要となる。空港でも取れるということだが,入国で手間取るのは嫌なので,あらかじめ日本で取得しておくことにした。幸い大阪在住の私は,通勤途中の梅田に在大阪カンボジア王国名誉領事館というのがある。申請用紙(パソコンでダウンロードできる),パスポート,顔写真,申請料だけで翌々日には受け取ることができる。エアラインのE-Ticketの提出は求められないが,入国日・出国日や滞在先の記入欄があるので,航空券やホテルの予約は前もってしておく方がよい。
今回,首都プノンペンではなく,シェムリアップという都市へ向かう。いずれにしろ,日本からの直行便はなく,韓国,ベトナム,台湾などを経由することになる。私はエールフランスのフライングブルーのマイル会員であるため,スカイチームのエアラインを利用する必要があった。シェムリアップへの便がある韓国の大韓航空,台湾の中華航空,ベトナムのベトナム航空ともにスカイチームのメンバーだが,もっとも便利なのがベトナム航空である。便数が多く,値段も手ごろ。ベトナム航空を利用するのは,ベトナムを訪れて以来,二度目である。
関西国際空港を10時30分に発し,約5時間後にハノイのノイバイ国際空港に着く。現地時間で13時ごろ。約2時間の乗り継ぎ時間。当時ターミナルは1つしかなかったので,ターミナル移動もなく,降機したその場所でそのまま乗り換える。見て回れる範囲もそれほど広くないので,乗り継ぎ時間としては長すぎるぐらいである。
次の便は15時30分発であるが,搭乗は15時前からはじまる。定刻通り,飛び立ったVN837便は,1時間半ほどでシェムリアップ国際空港に降り立った。まもなく機の扉が開いてタラップを降りると,熱帯の雨季の湿気が体を包み込んだ。乗客はみな,独特の屋根の形をした建物に誘導される。ターミナルビルというにはローカル感が強すぎる。
建物の大部分が屋根ではないかという造り。その一面に敷かれた瓦の紅土色が見る者の目を奪う。赤ともオレンジともいえぬその色は,ラトソル土からきているのではないだろうか。ラトソルは熱帯特有の土壌で鉄やアルミニウムを主成分とする土壌である。降水量が多い熱帯では雨により養分が土壌から流され,鉄やアルミニウムが残る。赤茶色した土のこの成分をラテライトといい,ラテライトを含む土壌がラトソルである。そのためアルミニウムの原料であるボーキサイト(酸化アルミニウム)は熱帯から豊富に産出される。大きな屋根とその色はこの土地の風土を象徴しているのである。そんな空港の風景を写真に納めながら,私とポンちゃんもみなの後についてゆく。カンボジアに来た。


入国審査では指紋採取があった。もう渡航歴は20年以上にもなるが初めての経験であった。指紋採取機には英語の説明が書かれおり,説明通り進めれば問題ない。右手(親指以外),右手親指,左手(親指以外),左手親指の計4回,10本すべての指紋を採取する。スキャンがうまくいけば緑のランプがつく。審査官のブースで手間取ることはない。
荷物を受け取ったらそのまま外に出てもよかったが,両替をしておくことにした。カンボジアの通貨はリエルというが,もちろん日本で手にすることはできない。なおかつこの国では外国人はドルが使用する。ただかつては通貨すら廃止された国である。そのわりに何と100リエルから100000リエルまで19種類もの紙幣が流通しているという。いくらかは手にしておきたい。5000円分のリエルを手に入れることにした。当時は100リエル=2円ほどの価値であった。両替ブースには二,三人が並んでいたが,ここで一番時間がかかった。途上国のゆるい仕事ぶりの洗礼を受けることになった。