You ain't heard nothing yet!

ある社会科講師の旅の回想録

You ain't heard nothing yet!(お楽しみはこれからだ!)

東海道をゆく②~第一宿:品川宿~

「わたくしも十六になります。」

八百屋お七 『好色五人女』井原西鶴

 

 江戸日本橋を出立して,東海道第一宿が品川宿。


 品川宿から旧東海道を南に下り,大井競馬場の近くに大経寺というお寺がある。かつてここに鈴ヶ森刑場があった。江戸初期,由比正雪の乱(1651)のころから設置された。幕府三代将軍家光のころまでの武断政治により,浪人が増加し,それとともに犯罪も多発する。江戸の入り口のこの場所に刑場を設置したのは,警告の意味もあったのだろう。


 鈴ヶ森で処刑された人物の一人に「八百屋お七」がいる。女性,しかも少女であったことから今でも語り継がれる。罪名は放火。動機は「恋」。というのも話題性十分である。井原西鶴が書いた『好色五人女』の中に「恋草からげし八百屋物語」という話がある。「恋草からげし」とは「燃えるような情熱的な恋」の意味だが,主人公お七は本物の火を放ってしまった。

 「火事と喧嘩は江戸の華」というが,ある日起こった火事(天和の大火)で江戸本郷の八百屋一家が避難生活を強いられた。この火事とお七は無関係であるが,そこで偶然出会った吉三郎と八百屋の娘お七は恋に落ちる。

 吉三郎せつなく,わたくしは十六になりますといへば,

 お七,わたくしも十六になります……

 何とも,この恋はじめもどかし

と実に初々しい。

 火事騒動もおさまり,離れ離れになった二人。その後逢えない日々を過ごすうち,お七は短絡的な行動に出る。「火事になれば,またあの人に逢えるはずだ」と。

 火事はぼやでおさまったが,放火の罪は火炙りと決まっている。ただし14歳なら情状酌量の余地があったようである。こんな話が別にある。取調べに当たった火付盗賊改役の中山勘解由が温情を見せる。「年齢をごまかしておけ」と暗にほのめかすのだが,純真なお七は正直に十六と答えたという。お七は市中引き回しの上,鈴ヶ森で刑に処せられた。

 八百屋お七とその結末だけは史実であるが,後に尾びれ背びれが加えられ,歌舞伎,浄瑠璃,落語,様々な芸能の題材となり語り継がれている。坂本冬美の「夜桜お七」もまたその一つ。

 十六とはそんな齢頃である。バカでもありバカもするが,バカにしてはいけない。

 

☆寄り道:大森貝塚

 鈴ヶ森刑場跡から徒歩10分ほどの所(JR大森駅から線路沿いに北に数分)。JR沿線の小径に「大森貝墟の碑」がある。1877年(明治10年),アメリカの動物学者エドワード=モースが汽車の車窓から,この貝塚の存在に気が付いたといわれる。日本の考古学発祥の地となった。