ニューヨーク大都市圏には3つの空港がある。1つはニューアーク空港であるが,これは正確にはニュージャージー州である。もう1つはラガーディア空港。この空港がマンハッタンに最も近いが,よほどでない限り外国からの長距離路線はJFK空港に着く。「JFK」は「ジョン=F(フィッツジェラルド)=ケネディ」。1963年11月にテキサス州ダラスで凶弾に倒れた合衆国第35代大統領を讃えて,「ニューヨーク国際空港(アイドルワイルド空港)」から改名された。
ケネディ家のルーツはアイルランドである。つまりはカトリックであり,そしてアメリカ初のアイルランド系でカトリックの大統領となった。
1840年代,イギリス(グレートブリテンおよびアイルランド連合王国)のアイルランド島で主要作物のじゃがいもが疫病にかかり,民族存亡の危機ともいえる大飢饉が発生した。生き残った人々は,座して死を待つか国外へ移住するかの二択を迫られる。餓死・病死,出産減,海外移住によってアイルランドの人口は半減したといわれる。
ケネディ一族もまた生き残るためアメリカ大陸を目指し,マサチュセッツ州のボストンに居を構えた。ジョン=F=ケネディの曽祖父の代であった。渡米したアイルランド人の多くは東海岸で根を下し,ボストン,ニューヨークは今でもアイルランド系住民の占める割合が他市と比べて突出している。JFKは世界都市ニューヨークの玄関に冠する名に名実ともに相応しかった。
空港に降り立って,白タク客引きを交わしながら正規のイエローキャブに乗り込む。その黄色に塗装された車体は正規タクシー会社の証である。「cab」はフランス語の「cabriolet(馬車)」からきた外来英語で,タクシーを意味する。ホテルの住所を見せ,マンハッタンに向けて出発。途中,クイーンズボロ橋を渡ってくれるようお願いした。
ニューヨーク市は大きく5区から構成される。ブロンクス,クイーンズ,ブルックリン,スタテンアイランド,そしてマンハッタンである。JFK空港はクイーンズ区にあり,マンハッタンとはイースト・リバーを挟んで向かい合っている。マンハッタンに入るにはこの川を渡らなければならない。いくつかの橋とトンネルによって結ばれているが,クイーンズボロ橋以外の橋を通過するには通行料が課せられる。(現在の状況はしらない。)正規タクシーといえどもこれは別料金になるというのが,理由の1つであった。
余談であるが,ボロ(イギリス英語ではバラ)とは「行政区」を意味する語で,「市・郡・区」という日本語をあてることがある。ただこの語自体がもう地名となりきっている場合も多く,イギリスのマルバラ(米語でマルボロ),エディンバラなどが有名である。更に余談ついでに,ヨーロッパによくある「~ブルク(ブール)」もこれと同じ語源である。ルクセンブルク,シェルブール,ハンブルクなどが知られる。
さてクイーンズボロ橋は無料で通行できる分,交通量が多く時間もかかってしまうのだが,それでもこの橋を渡ってみたかった理由はもう1つある。クイーンズボロ橋には別名がある。「59番街橋」というのがそれである。クイーンズ区からみれば,確かにクイーンズボロ(クイーンズ区)橋であるが,これをマンハッタン側からみれば,59番街から架かる橋だからである。
もうお分かりの人もあるかも知れないが,サイモン&ガーファンクルの「59番街橋の歌(The 59th Street Bridge Song)」の曲名に使われている。ちなみに歌の内容は橋とは全く関係ないが,それがこの橋を渡りたかった2つ目の理由である。
眼下にルーズベルト島(中州)を跨ぎながら私を乗せたタクシーはイースト・リバーを越えていく。マンハッタンに入ったタクシーは碁盤の目のような整然とした道路を縫うように進みながら宿へとたどり着いた。まさに爽快な気分であった。
Just kicking down the cobblestones
Looking for fun and feelin' groovy
Ba la la la la la la, feelin' groovy
(ただ石畳を蹴りながら
楽しいことを求めて 爽快な気分
ああなんて,爽快な気分だ)
サイモン&ガーファンクル「59番街橋の歌(The 59th Street Bridge Song)」