セントラルパークを北に,コロンビア大学方面へと向かっている。コロンビア大学は,18世紀の植民地時代に創設された全米のみならず,世界屈指の名門校である。
バンバンというフォークデュオがいた。代表曲『「いちご白書」をもう一度』はユーミンが荒井由実時代につくった曲であり,日本のフォークソングを代表する曲として知られている。歌の中身は破恋であるが,背景には学生運動がある。
1960~70年代の学生運動を知らずに育った私たちやその後の世代にとっては,この歌の意味がピンとこないことだろう。実際,フォークソング部であった私でさえ,この歌を弾き語りしようなどと考えたこともなかった。タイトルの『いちご白書』(1970)とは,映画のタイトルであり,1968年にコロンビア大学で実際におこった学生運動をもとに製作された。ラストシーンでは講堂を占拠した学生たちが輪になって座り込み,床をたたきながらジョン=レノンの『平和を我らに』を大合唱する。まるで一種の宗教儀式めいて,おぞましい。
この映画の肝は,主人公(サイモン)がいわゆるノンポリ(政治運動に関心がない)であったこと。彼が学生運動に参加していた女学生(リンダ)に恋をする。つまりは純愛映画である。学生が大合唱する中,武装した機動隊が学生たちを排除にかかる。蹴られ殴られ,捕らえられたリンダを救おうとサイモンは機動隊に飛び掛かる。宙に浮いた鬼気迫る表情のサイモンのストップモーションで幕が閉じる。そこに流れてきたのが,バフィー=セントメリーが歌う『サークル・ゲーム』。オープニングでも使われたこの曲が最後に流れることでこの物語に救いがもたらされる。まるで『平和を我らに』を出汁に使ったかのように『サークル・ゲーム』の爽やかさが残る。「すげぇ!」そして少しだけ「『いちご白書』をもう一度」の歌詞の意味が分かった気がした。ユーミン,「すげぇ!」。
『サークル・ゲーム』は実にいい。名曲といっていい。書いたのはジョニ=ミッチェル。曲の前半は子どもが極普通の子どもらしい夢をみて育って大人になる。20歳になる場面
So the years spin by and now the boy is twenty
Though his dreams have lost some grandeur coming true
There’ll be new dreams, maybe better dreams and plenty
Before the last revolving year is through
(そして月日は流れ,少年は20歳になりました
叶うはずの夢はいくらか輝きを失ってしまったけれど
新しい夢が,たぶんもっと素敵で豊かな夢が生まれるでしょう
最後の年が巡る前に)
And the seasons, they go round and round
And the painted ponies go up and down
We’re captive on the carousel of time
We can’t return
We can only look behind from where we came
And go round and round and round
In the circle game
(そして季節は何度もめぐっていきます
ペンキで塗られた子馬は上がったり下がったり
私たちは時という回転木馬に捕われている
戻ることはきません
私たちが来たあとを振り返るだけ
季節はめぐりめぐっては回り続けるのです
サークルゲームの中で)
この曲はニール=ヤングの「シュガーマウンテン」への返歌であったというのを何かの冊子で後で知った。「シュガーマウンテン」は静かなテンポと単調なメロディの繰り返しだが,英語の歌詞の響きがよく,コードも3つぐらいしか出てこないのでとても弾き語りしやすく,よく私も歌っていた。20歳になったらお菓子の山から出ていかなければならない。もう子どもではいられない。もう戻らない青春に対する嘆き。繰り返すサビの部分はこう
Oh to live on Sugar Mountain
With the barkers and the colored balloons
You can't be 20 on Sugar Mountain
Though you're thinking that
You're leavin' there too soon
You're leavin' there too soon
(ああ,シュガー・マウンテンで
動物たちや色とりどりの風船たちと一緒に暮らしたいなら
この丘で,君は20歳になってはダメなんだ
きみは思うかもしれない
もうすぐ出て行かなきゃならないのか。
早すぎるじゃないのか。)
この旅をしていた私はちょうど20歳であった。