フランクリン=ルーズヴェルトもクレマンソーも人名である。前者は第二次世界大戦で連合国を勝利に導き,フランス解放に大きく貢献したアメリカ大統領であり,後者は第一次世界大戦時のフランス首相である。
シャンゼリゼとモンテーニュ通りが交差するフランクリン・D・ルーズヴェルト駅界隈は,有名ブティックがひしめく場所である。ファッションに興味がある方なら一日過ごせそうであるが,はてさてこの辺りは全くもって無頓着な私は通り過ぎるしかない。
フランス人のファッションについて1つ思い出すことがある。私にとってそれは,ココ=シャネルやイヴ=サン=ローランなどではなく,ミシェル=プラティニなのである。ミシェル=プラティニはご存じだろうか。フランスを代表するサッカー選手である。司令塔としての役割とその雄姿から「将軍」とよばれた。
なぜフランス人のファッションがサッカーなのかというと,1982年のワールドカップスペイン大会のことである。プラティニ率いるフランスは準決勝で西ドイツと対戦した。このとき両チームの選手たちはユニフォームシャツをパンツの中にしっかりと入れてプレーしていたのにもかかわらず,プラティニだけがシャツをだらしなく出していたのである。柔道なら注意されるところである。サッカーだけにかかわらず当時はズボンの中にシャツをしっかりと入れるのが当たり前の時代で世界基準。真面目が売りのドイツ人に対してプラティニはユニフォームの着こなしから挑戦的であった。
86年のメキシコ大会,このとき活躍したマラドーナはまだシャツをしっかりとズボンの中に入れていたが,90年代に入ると次第に現在のようにズボンの外に出すスタイルが浸透していく。プラティニは10年もおしゃれを先取りしていたことになる。私にとってミシェル=プラティニはそのプレースタイルよりもフランス人のファッションセンスについてうならせてくれた人であった。
シャンゼリゼはChamps Elyses。Champは英語のfieldにあたる。「野・畑・園」である。英語では「camp」の形で残っている。「Elyses」の方は人名ではなく,ギリシャ神話で「パラダイス」,極楽浄土的な意味。マット=デイモン主演の『エリジウム』(2013)という映画があったが,英語では「elisium」となる。「Champs Elyses」で「楽園」とでも訳そうか。シャンゼリゼ・クレマンソー駅の近くにはフランス大統領官邸,エリゼ宮があり,シャンゼリゼ通りには,その裏庭が面している。
エリゼ宮庭園のシャンゼリゼを挟んで向い側はグラン・パレとプティ・パレ。「パレ」つまり「パレス(宮殿)」であるが,その実,今は博物館である。パリはここから美術館・博物館ゾーンへと入っていく。そのクライマックスにはルーブルが待ち構えている。これらの見学は街歩きとは別日程で挑まなければ体がもたない。何度かパリを訪問したが,これまでルーブルだけでも延べ三日は要している。