You ain't heard nothing yet!

ある社会科講師の旅の回想録

You ain't heard nothing yet!(お楽しみはこれからだ!)

パリ東駅

  パリ北駅のすぐ隣にパリ東駅がある。東駅はパリの東部にあるから東駅ではなく,北駅の東に位置するということ。またパリからフランス東部への列車が発車するため東駅とよばれるのである。パリの東にはあのシャンパンで有名なシャンパーニュ地方,ドイツとの国境紛争が堪えなかったアルザス・ロレーヌ地方,そしてストラスブールがある。ストラスブールからライン川を越えるとそこはもうドイツである。そのため東駅はかつてパリ=ストラスブール駅とよばれていた。古い映画や古い時代を舞台とした映画で「ストラスブール駅」という呼び名で登場するのがこの東駅である。その時代や場面とは二つの世界大戦で,フランスにとってそれはすなわちドイツとの戦争である。

 東駅のコンコースにはアメリカ人画家アルバート=ハーターによる巨大な絵が飾られている(「Le départ des poilus – Août 1914」歩兵の出発 1914年8月)。題材は第一次世界大戦で出征する人々の別れの様子であり,ドイツ(西部戦線)に向って多くの兵士が出征した。絵の中央で銃を掲げる若者はハーターの息子で,志願兵として戦線へと旅立った。息子は1918年6月に戦死。ドイツと連合国が休戦協定を結んだのはその年の11月11日であった。

 フランス東部の旅はまた別の機会にお話するが,先の安宿に宿泊した理由は,フランス東部からの旅を終えて東駅に戻り,翌日北駅から帰国の途につくため,リスクを承知で安くて便利な場所を選んだためであった。