You ain't heard nothing yet!

ある社会科講師の旅の回想録

You ain't heard nothing yet!(お楽しみはこれからだ!)

パリの空の下セーヌは流れる

 「パリの空の下セーヌは流れる」というフレーズは,フランス映画(1951)からである。映画の主題歌『パリの空の下(Sour ciel de paris)』はだれもが耳にしたことがあるシャンソンの代表選手である。シャンソン界の大御所エディット=ピアフはじめ,多くのフランス人歌手がカバーした名曲である。最近ではZAZという歌手がお気に入りで,現代風のポップなアレンジの中に,エディットばりのシャンソン特有の「こぶし」が心地よい。


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 伴奏にはアコーディオンが良い。それにしてもアコーディオンという楽器は三拍子を刻むにぴったりの楽器である。パリでは街中にアコーディオン弾きがいる。地下鉄の駅や地下道には公式ライセンスをもった流しのミュージシャンが楽器を奏で,歌を披露する。音の響きがよいのだろう。流しは車内にも登場する。一曲弾いては次の車両へ。大きなリュックを前に抱えるようにして弾くアコーディオンは移動しながらの演奏にも向いている。『パリの空の下』は定番曲のようで,これまた題名がよく似た『パリの屋根の下』とともにパリ滞在中はあちこちで耳にするであろう。チップをせがまれたらどうしようと困惑する一方で,「ズン・チャッ・チャ」のリズムに思わず体が左右に揺れる。

 さてアウステルリッツ駅はセーヌ川を挟んでリヨン駅の向かいにある。アウステルリッツは当時のオーストリアの地名である。これはフランスのナポレオンがオーストリア・ロシア軍を破った戦いが行われた地であり,フランス人にとっては誇るべき戦いであった。

 一方,イギリスのロンドンにはウォータールーという巨大ターミナル駅があるが,これはベルギーのワーテルローの英語読みである。アウステルリッツがナポレオン大勝利の地なら,ワーテルローはナポレオン大敗の地。ナポレオンをこの地で破ったのが,イギリスのウェリントン卿アーサー=ウェズリーであった。ウォータールー駅はイギリスの大勝利にちなんでいるわけだ。ABBAの名曲「Waterloo」もワーテルローの戦いからとった曲名である。曲の最初の歌詞がまさに「ワーテルローでナポレオンが降伏した」から始まる。


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 リヨン,アウステルリッツ,2つの駅を結ぶのがシャルル・ド・ゴール橋であるが,これは最近できた橋で,昔はリヨン駅から少し下流のアウステルリッツ橋か,上流のベルシー橋を渡った。ベルシー橋は『パリの空の下』の歌詞の中にも出てくる。

Sous le pont de Bercy

Un philosophe assis

Deux musiciens quelques badauds

Puis des gens par milliers

( ベルシー橋の下では

哲学者が1人座り込んでいる

2人のミュージシャン,何人かの野次馬

それから大勢の人たち)

 

 

Sous le pont de Paris

Jusqu'au soir vont chanter

Hum Hum

L'hymne d'un peuple épris

De sa vieille cité

(パリの空の下

彼らは日が暮れるまで歌う

ン~ ン~

この古い街に魅せられた

人々の賛歌を)

 

 この歌,「ン~ ン~」の部分がすごく気持ちいいのだが,ベルシー橋が有名なのはこの歌だけではない。橋の上にまるでローマ水道橋のような高架を通し,その上をメトロ(6号線)が走っているのである。地下鉄が地上二階を通り過ぎるという奇妙な光景が見られるのだ。映画『パリの空の下』にもこの橋が何度か映り,列車が走るシーンがある。

 映画の中身ついてはいわゆるオムニバス映画で,一人の主人公ではなく,パリに住むさまざまな人々の24時間を描くというもの。労働者とその家族,医学生,猫好きの老婆,富裕層,モデルとその友人,冒険好きの少年少女,それに切り裂きジャックばりの殺人狂が登場する。陽気なホラーという感じで何だかまとまりがなさそうであるが,それでも最後はすべての人々が見えない運命の糸で結びついているという結末。ハッピーエンドなのかバッドエンドなのかどうもしっくりこない。映画も歌もたぶんパリという街そのものが主人公なのだろう。パリという街が人を翻弄している。

 上の歌詞に「sa vieille cité」とある。「vieille」は「古い」,「cité」は「街(英語のcity)」で「古い街」ということであるが,「cité」の「c」を大文字にして「Cité」とすると地名となる。「シテ」つまり「シテ島」は,ベルシー橋,アウステルリッツ橋のさらに下流側にある世界でもっとも有名な中州の1つである。パリのノートルダム寺院がそこにあるといえばわかるだろう。

 

Près de Notre Dame

Parfois couve un drame

Oui mais à Paname

Tout peut arriver (s’arranger)

ノートルダムの近くでは

ときに事件の兆しもある

そう,でもパリでは

何でも起こり得る(全てが丸く収まる)