You ain't heard nothing yet!

ある社会科講師の旅の回想録

You ain't heard nothing yet!(お楽しみはこれからだ!)

TGV

 パリ・リヨン駅は文字通りリヨンへと向う駅であるが,中部リヨンだけでなく,フランス南部各地へ旅行者を誘う玄関口である。ここからTGVでマルセイユに向う。1993年,初TGVであった。TGVは「高速鉄道」のフランス語略称で,フランス版新幹線だと思ってよい。日本の東海道新幹線が東京オリンピックの1964年に営業開始したのに遅れてフランスでは1980年代になってやっと営業運転がはじまった。速度的には日本の新幹線より早いらしい。TGVはパリ・リヨン間で最初に開通した。その後,パリを中心にフランス各地だけでなくスイス,ベルギー,イギリスなど国際線へと拡大していく。TGVをもってしても当時はパリからマルセイユまで5時間かかった。

 わたしはどうも日本の新幹線が苦手である。理由の1つに直角すぎる座席がある。あの直角座席には暖かみを感じることができないのである。もう1つはそのスピード感である。「どうだ早いだろう」的な必死さ。もちろんスピード重視であってこその新幹線だからしかたがない。しかしあの猛烈な景色の移り変わりは鉄道の醍醐味を台無しにしている。トンネルが多いのも景色の切り替わりをデジタルにしている。同じ景色を犠牲にしてスピードを重視するなら,わたしは断然飛行機派といえよう。

 ヨーロッパの高速鉄道は新幹線に匹敵するスピードをもちながらもゆったりした気分になれる。程よい角度の座席,そしてなによりその景色。フランスなどは悪くいえばそれほどかわらないのであるが,かわらないということは切り替えがない,流れるような風景ともいえる。目にも脳にも心地よい。日本の新幹線で感じるある種の緊張感がないのである。