You ain't heard nothing yet!

ある社会科講師の旅の回想録

You ain't heard nothing yet!(お楽しみはこれからだ!)

見えるのはもう青い空だけ~ロサンゼルス③~

 映画産業の黎明期であった20世紀初め,業界の中心は東海岸にあった。そのボスはあの有名な発明王トーマス=エジソンである。エジソンはモーション・ピクチャー・パテント・カンパニーという企業協定(トラスト)を結成し,業界の利益を独占する。別名エジソン・トラストと呼ばれた。エジソンは私にとっては偉人でも何でもない。

 エジソン・トラストの圧力から逃れるため,非加盟の映画業者が新天地として選んだのが西海岸であった。カリフォルニアは温暖な地中海性気候であり,温帯の中でも降水量が極めて少ない。明るく晴の日が多い気候は,映画の撮影に最適であった。1918年,ハリー,アルバート,サム,ジャックのワーナー4兄弟がハリウッドに映画スタジオを設立する。のちのワーナー・ブラザースである。今でもワーナー・ブラザース配給映画のオープニングにはハリウッドのワーナースタジオが映し出される。ワーナー映画の伝統である。

 ワーナー・ブラザース躍進の転機となったのが『ジャズ・シンガー』(1927)である。世界初のトーキー(映像に音声をのせる)長編映画。トーキーの幕開けであった。このブログのタイトルこそが記念すべき最初のセリフである。主人公のアル=ジョルソンが「Dirty hands Dirty face」を歌い終わったあと,こう言う。

Wait a minute, wait a minute. You ain't heard nothing yet! Wait a minute, I tell you. You ain't heard nothing. 

「待ってくれ,お楽しみはこれからだ。待ってくれって。これからだよ。」高橋鎮夫氏の名訳である。世界初の音声セリフにふさわしい惚れ惚れする日本語である。

『ジャズ・シンガー』の中に私の大好きな曲がある。「ブルースカイ」お薦めの一曲。歌詞と私の拙訳を載せて置く。

Blue skies

Smiling at me

Nothing but blue skies

Do I see

(青い空が微笑みかける 見えるのはもう青い空だけ)

 

Bluebirds

Singing a song

Nothing but bluebirds

All day long

(青い鳥が唄う 一日中聞こえるのは青い鳥の唄だけ)

 

Never saw the sun shining so bright

Never saw things going so right

Noticing the days hurrying by

When you’re in love, my how they fly

(こんなにも太陽がまぶしいなんて こんなにもすべてが思い通り行くなんて あなたに恋してから,飛ぶように日々は過ぎていく)

 

Blue days

All of them gone

Nothing but blue skies

From now on

(憂鬱な日々はすべて過ぎ去った これからはもう青い空だけ)

 

 

 ハリウッドのチャイニーズシアターを前にして,私の心はまさにこの歌の歌詞であった。見上げたカリフォルニアの空はどこまでも広く,限りなく青かった。こんな青空を見たことがなかった。