You ain't heard nothing yet!

ある社会科講師の旅の回想録

You ain't heard nothing yet!(お楽しみはこれからだ!)

ゴールデンエイジ~ベトナム紀行㉔~

 懐かしい記憶の中のホン川に感動しているうち,車はハノイ市内に入る。まもなくホテルに到着。予約したゴールデン・サン・スイーツ・ホテルは幅3メートルほどしかない4階建ての細身の建物であった。よくみると隣のホテルはゴールデン・パレス・ホテルとなっている。私はすぐに沢木耕太郎の『深夜特急』を思い出した。バックパッカーの聖書とよばれた本である。

 沢木氏が香港で滞在したホテルがゴールデン・パレス・ホテルという安ホテル。次にバンコクで泊ったのがゴールデン・プラザ。著者は「この分では,インドへ行けばゴールデン・テンプルで,イランに行けばゴールデン・ハレムにでも泊ることになるのではあるまいか。」と語っていたのが,可笑しくてよく覚えている。「バンコクのこの館も,香港の黄金宮殿に負けず劣らず,いかがわしげだった。」確かに安ホテルほど「ゴールデン」とつければ縁起が良いのか,安直なネーミングが多いという実感は私にもある。アジアの大衆は金(ゴールド)に魅かれる。


 ドアを開けて一歩ホテルに入ると中は明るく,冷房がよく効いていた。パスポートを預け,チェックインの手続きをしている間,ロビーに腰掛けてウェルカムドリンクを頂いた。味はマンゴーであった。若い男性スタッフが周辺地図を広げて,この辺りの見どころを紹介してくれる。実に表情豊かで,丁寧な英語であった。かつて私が懐いていた無表情で淡々と働く社会主義ベトナム人のイメージとは異なっていた。スタッフはみな20代かと思われる若者ばかりで,彼らはドイモイが軌道に乗った1990年代生まれの新しい世代である。
 ここからハロン湾やタムコックといった景勝地,ディエンビエンフーへのツアーも申し込めるという。もちろん心は惹かれたが,今回はそれほど欲張らずハノイでの一日余りは市内を巡るだけに留めた。ただ中心部から離れるが,「二徴夫人祠」というところは訪れたいと思ったので尋ねてみた。
「デン・ハイバーチュン」
とベトナム語で言ってみたが,発音が悪いのか通じない。ガイドブックでスペルを見せてみたが,1階スタッフ総出でピンとこないようである。名所というほどの場所ではないのだろうか。ついにはパソコンで調べてもらった。あっという間に調べはついて,ここから車で10分ほどのところであった。明日行くつもりだというと,そのときタクシーを呼んでくれるという。礼をいうと私の周りに集まった数人の新世代はみな笑顔であった。

現在は「ハノイ ラ パーム プレミア ホテル&スパ (Hanoi La Palm Premier Hotel & Spa)」