この日は街を歩き回る。まずはホーチミン廟へ向かう。このとき私はMaps.Meというオフラインで使用できる地図アプリを使用していた。ルート検索をして歩き出し,しばらくするとあることに気づいた。ルートは線路上を示しているではないか。
半信半疑で進んでいくと,ルート通り線路に出た。しかも柵もなく,線路脇にはカフェが堂々と営業している。雑貨屋もマッサージ店もある。観光客もこの冒険的な空間で記念撮影。近くの住民らしき人々は,線路脇で将棋に興じている。このような列車すれすれの場所に店を構えるところは他にもあるが,徒歩ルートとして認識されているのは驚きである。確かに最短ルートである。わずか100mたらずの区間だが,列車が来ないならバイクが乗り入れないだけ安全な歩行者天国といえよう。
トレインストリートを抜けて西へ進むと公園が見えてきた。ベンチに腰掛けて水を飲む。通りに面してなにやら像が立っている。よく知っている顔であった。レーニンである。1922年,ソビエト連邦を打ち立てたレーニンは社会主義国の象徴であるが,ソ連崩壊とともにヨーロッパではその像は引きずり降ろされ,破壊された。まさかここで未だに両足で立っているレーニン像を見られるとは。
レーニンの公園から北東にもうしばらく歩くと,開けた緑の広場に出る。1945年,この広場でホー=チ=ミンはベトナム民主共和国(北ベトナム)の独立宣言を読み上げた。広場の奥にある西洋風神殿にホー=チ=ミンの遺体が安置されている。ホー=チ=ミンは生前,個人崇拝につながる廟の建設を望まなかったというが,ベトナム人たちはそれを許さなかったようだ。レーニンの遺体もまた永久保存処理され,クレムリンの赤の広場の廟に安置されている。廟の北側には彼が死ぬまで住まいとした高床式の質素な木造住居も残されている。