ルネサンスは単に古典古代の模倣や復活だけでなく,精神的な面として個人・個性・感情・人間性の追求が不可欠になってくる。人文主義という言い方をする。これまでの中世の追求の対象は「神」であった。「神」の反対語は何か。それが「人間」であった。
英語で芸術を意味する「art」。語源となったラテン語の「ars(アルス)」の第一義は「技術」であった。もちろん中世でも絵画は存在したが,それは「芸術」ではなく職人による「技術」でしかなかった。誰もが同じようにやって同じものができあがるのが「技術」である。驚くべきことではなく当然のように同じ結果が生まれるのが技術である。
中世の絵画は絵の名前はわかっても作者の名前はわからないものが多い。絵の題材はたいてい聖書。モデルはイエスにマリアに天使,そして使徒や聖人。そしてマリアは決して笑わない。ダ=ヴィンチの「モナ=リザ」は遠近法だとか科学的分析と手法だとかに気を捕らわれるが,一般女性が微笑んでいること自体が驚くべきことなのだろう。
ウンベルト=エーコの『薔薇の名前』は,中世末期の修道院を舞台としたミステリーであった。物語の本筋となる殺人事件の手がかりは,修道院の図書館に隠された禁書:アリストテレスの詩学第二部『喜劇』(実在するかは不明)であった。「笑い」は神に仕える者にとって忌むべき行為であったが,エデンの林檎のごとく手を出さずにはいられない人間の性(さが)である。その性(さが)をルネサンスは追求したのである。
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